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東京高等裁判所 昭和33年(ラ)611号 決定

抗告人 阿部弘行 外二名

相手方 山田由太郎

主文

本件各抗告を棄却する。

各抗告費用は当該抗告人等の負担とする。

理由

本件各抗告事件の抗告の趣旨並びに抗告理由はそれぞれ別紙記載のとおりである。

本件において相手方が異議申立の要旨として主張した原決定理由一の(1) ないし(3) に記載した事実は抗告人等においてもすべてこれを争わないところである。

そして右事実にもとずく原審の法律上の判断は正当であり、当裁判所もこれと見解を同じくするから、右理由の説示をここに引用するが、以下本件各抗告理由に対し次のとおり判断を附加することとする。

第一、第六一一号抗告事件抗告人阿部弘行の抗告理由に対する判断

一、同抗告理由第一、二点(同抗告理由書第二、三項及び第四項末段の記載参照)について、

しかし元来決定及び命令はその確定を俟たず即時に執行力を生ずるのが原則であり(民訴法第二〇四条)これに対する不服申立の途があると否と、また、決定の内容が同抗告人のいわゆる創設的たると消滅的(本件のような取消決定)たるとにかかわらないと解すべく、ただこれに対し即時抗告があつた場合には一旦発生した執行力がここに停止されるに過ぎない。(同法第四一八条第一項)本件において同抗告人は原決定理由一、の(1) 及び(2) 掲記の各仮処分取消決定に対しそれぞれ適法な即時抗告の申立をしたというのであるから、右各即時抗告の提起により一旦発生した取消決定の執行力が停止されることになるけれども、即時抗告の提起により当然執行が停止されるものでなく、これが執行機関の現実の執行手続(執行の停止)を求めるには同法第四一八条第二項のような裁判の正本(同法第五五〇条第二号に該当)の提出を要すべきものと解すべきこと同法第五五〇条の規定(同条は執行機関の執行の停止制限に関するもので限定的列挙事項と解すべきである)の趣旨からも窺われるところである。所論は採用の限りでない。

二、同抗告理由第三点(同理由書第四項記載)について、しかし原決定理由によつても窺い得る如く、本件における執行吏の職権による執行処分の取消は、相手方が右執行吏に委任してなした各仮処分取消決定の執行並びに和解調書の執行に関してなされたもので、しかもこの違法な取消により、右各仮処分取消決定の執行及び和解調書にもとずく強制執行はいまだ執行されない以前の状態に復せしめたのであるから、かかる状態の続く限り、右各執行手続は未だ終局的には完結していないといわねばならず、従つて相手方としては、なお執行の方法に関する異議によつて右違法な職権取消の是正を求めることができるというべきである。所論は前示執行吏の職権取消が違法であつても、その処分は既に終了しているから、もはやこれを対象として方法の異議は許されないというが、執行吏の右処分は相手方の委任による前記各執行手続の過程中に行われた一の執行処分に外ならず、そして右執行手続はいまだ完結していないのであるから、執行吏の右違法処分を対象として執行方法の異議を申立て得ることはもちろんである。所論は採用の限りでない。

第二、第五六八号抗告事件の抗告人等の抗告理由に対する判断

同抗告理由第一点(同抗告理由書第三項記載)及び第二点(同上第四項記載)に対する判断については、すべて第一の一、及び二に説示するところをここに引用する。

よつて本件各抗告は理由なしとして棄却すべきものとし、各抗告費用は当該抗告人等に負担させ主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木禎次郎 坂本謁夫 中村匡三)

抗告の趣旨

原決定は之を取消す

相手方の本申立は却下する

との裁判を求めます。

抗告の理由

一、(一)、抗告人阿部弘行は申立外株式会社中井屋ホテル同阿部三郎を相手方として破産財団保全のため東京地方裁判所昭和三十三年(モ)第五八五〇号同第五八七八号保全処分申請事件につき原決定添付の目録(一)(二)(四)の土地建物につき昭和三十三年五月十六日処分禁止並に占有移転禁止等の仮処分決定を得、昭和三十三年五月十七日占有に関する部分の仮処分執行を了したが同年八月十五日該決定が何れも職権で取消され且同月二十五日執行取消されたこと。

(二)、同じく同庁に於て相手方と右株式会社中井屋ホテル間の新宿簡易裁判所昭和三十三年(イ)第六五号和解事件の債務名義に基く執行禁止の仮処分決定をうけていたが同決定も同年八月二十二日取消されたこと。

(三)、相手方が右債務名義に基き同年同月二十五日前記目録記載等の物件につき強制執行をなしたこと。

(四)、抗告人は前記取消決定に対し何れも適法な抗告期間内に即時抗告をなし右は執行停止の効力を有するので執行吏に対し昭和三十三年八月二十七日前記保全処分取消決定の執行及び前記債務名義に基く明渡強制執行の取消しを申出執行吏は職権により何れも之を取消し結局同月二十五日執行前の状態に復したこと

は原決定理由第一次記載の通りである。

二、而して原決定はその理由中に於て前記保全処分取消決定は即時に執行力を有するから前項(一)(三)の執行は適法であると認定しているのであるが、決定は如何なる場合であつても即時に執行力を有するものではない。

即ち本件取消決定の如きは一方に於て不服申立を許しておりながら即時に執行力を生じるとすれば抗告人に於て右取消決定を受領する頃は既に相手方に於て取消決定の執行を終了し即時抗告に於て更に取消の決定を得ても之を執行するに由なく、不服申立は何等の意味の存しないものとなるのであつてこの様な場合は担保取消決定に於て確定を要するものとせられているのと同様に解すべきであつて右確定前の執行は違法と云わねばならない。

三、仮に然らずとするも前記の如く抗告人に於て本件明渡の強制執行の目的物件に対する占有移転禁止等の仮処分取消については右取消執行前たる昭和三十三年八月二十一日執行禁止の仮処分取消に対しては同年八月二十五日夫々東京高等裁判所に即時抗告をなしたのであるが民事訴訟法第四百十八条第一項により右は執行停止の効力を有するのである。

原決定は即時抗告は右の如く執行停止の効力を有することを認めながら、同法第五百五十条の規定があるので現実の執行停止は更に同法第四百十八条二項により執行停止の裁判を必要とすると解しているのである。

然しながら一方に於て執行停止の効力を認めておりながら更に執行停止の裁判を必要とするのは結局即時抗告に執行停止の効力を認めないことと同一の結果となり矛盾するのみならず民事訴訟法第四百十八条第二項の規定は「ヽヽヽ執行を停止し其の他必要な処分を命ずることを得」としているのであつて必らずしも右停止の裁判をしなければならないとはしてないのである。

従つて執行の停止制限については即時抗告の場合は右抗告提起の証明書で足りるものと謂うべきでこの場合は民事訴訟法第五百五十条の適用はないと謂わねばならぬ。

従つて、本件執行吏の執行処分を不許とするべきではないと思料する。

四、原審は、第一項(四)号記載の如く仮処分取消決定の執行取消、強制執行取消の各執行即ち本件執行方法の異議の対象である取消執行が何れも既に終了し執行前の状態となつていることを認めながら相手方の執行方法の異議を認めて右各取消執行を認めない旨の決定をなしたものであるが右の如く執行処分が終了した後に執行方法の異議が許されないのは大審院判例(大審昭和一三年(オ)第一六七〇号同一四年二月二二日民一判法律新聞四三八八号一八頁)の示すところであつて原決定は取消さるべきものである。

要するに原審は仮処分命令に対する職権取消命令の裁判は仮処分其の他の創設的裁判と同視して即時執行力あるものとの誤信に基くものであるが本件異議の原因である職権取消の決定は消滅的裁判であること、此不服申立が許されている事を勘案すれば職権取消の決定はその決定の性格よりして、到底即時執行を許さるるの理は存しないのである。殊に即時抗告については執行停止の効を有すと特に明文あり何故に求めて更に停止決定を以つてする要あらんやである、原審決定は此点を曲解し且原状に回復さした執行は既に終了して完結したものを更に執行方法の異議として容認したもので原審裁判は法の解釈を過つた違法の裁判といふべきものである。

抗告の趣旨

原決定は之を取消す

相手方の本件異議申立は之を却下する

との御裁判を求める。

抗告の理由

一、抗告人等が申立外阿部弘行の申請により東京地方裁判所の決定に基き破産宣告前の仮処分執行を受けた事実及仮処分が取消され明渡の強制執行をうけたが更に執行吏の職権により右取消の執行及強制執行が取消され結局仮処分取消執行及強制執行前の状態に復したことは原決定理由第一項に記載する通りである。

二、而して執行吏は申立外阿部弘行より前記仮処分取消決定につき破産法第一一二条により即時抗告が提起され右は民事訴訟法第四一八条一項により執行停止の効力を有するところ右阿部弘行より即時抗告提起の証明書が出されたので右仮処分取消の執行及明渡の強制執行は右即時抗告後なされたものであつて違法な執行であるから許すべからざるものとして職権で取消したものの如くである。

三、原審は右の如き執行吏の取消執行行為に対し執行の取消は民事訴訟法第五五〇条列記の場合以外は之を許すべきものではなく即時抗告は執行停止の効力を有するが執行吏の現実の執行を停止又は制限するには民事訴訟法第四一八条二項の処分を必要とする旨判断している。

然しながら民事訴訟法第五五〇条は執行の停止制限につき特に同条項の場合に限る旨規定しているわけでなく例示的と解せられる余地が存すのみならず民事訴訟法第四一八条一項二項の規定の体裁よりすれば即時抗告の場合に於ける執行停止其の他必要の処分は裁判所がその裁量に於てなすことが出来ると解せられるのであつて、原決定判示の如く執行吏の現実の執行を停止するために右第二項の処分を必要とするならば同条第一項に於て即時抗告に執行停止の効力を付与した以上必らず執行処分の停止をする旨の規定が存しなければ首尾一貫しないものとせねばならない。

従つて民事訴訟法第四二八条の場合は即時抗告の提起証明書により執行吏はそのその執行の停止制限をなすべきものであり前記執行吏の取消処分は正当であつたものとも謂うべきである。

四、仮に然らずとするも本件執行方法の異議は執行吏の職権による仮処分取消執行の取消、明渡強制執行の取消の各執行でありこの様な処分が仮に違法であるとするも右が執行行為であることは因より疑のないこととせねばならない。然るところ右取消執行は本件執行方法の異議申立当時既に執行終了の状態にあつたことは原決定も之を認めている通りである。

執行が終了した以上執行の方法に対する異議申立が許されないことは判例の認めるところであつて原決定は何れにしても取消さるべきものと思料する。

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